下流社会第2章 なぜ男は女に”負けた”のか

 坊やだからさ。

下流社会 第2章  なぜ男は女に“負けた

下流社会 第2章 なぜ男は女に“負けた"のか (光文社新書)

 下流社会の人の本です。相変わらず統計上の分析については、「その数値でそんなことを断言しちゃっていいの?」という疑問が残るが、まあ、センセーショナルな本ではある。
 今日の社会で格差が拡大し、社会問題化しているのは周知のことであるが、この本は更にその状況が恐ろしい方向に向かっていることを示唆している。

 驚いたのは、朝日新聞が2006年に行った調査の結果だ。

 おそらく朝日の担当者としては、非正社員には現在の政治への不満が多く、また今後は正社員になりたいという気持ちも強いだろうという予想があったと思われる。
 しかし、結果は必ずしもそうしたものではなかった。
(中略)
 未婚であれば親に、既婚であれば夫に、主な収入源を期待できる女性において、正社員志向が少ないのはうなづけるとしても、男性ですら正社員になりたい人がそんなに多くないのである。
 格差社会を批判する学者、政党、労働組合、メディア関係者らは、非正社員がみな正社員になりたがっているのになれないと思っていると考えがちだ。そしてそう思ってくれたほうが現政権を批判しやすい。ところが、非正社員は必ずしも正社員になりたいとは思っていないのだ。だから格差社会批判をするだけでは世論は盛り上がらないし、若者の支持は得られないのである。
 そこに「下層社会」あるいは「階級社会」とは質的に異なる「下流社会」の特徴がある。雇用が不安定な人、所得が低い人が、必ずしも政治に強い不満を持っていない。必ずしも正社員になりたいとも、所得を上げろとも訴えていないのである。

 第3章 上流なニート下流な正社員 より

 非正社員は、将来的には正社員になることを希望している人が多い。
 しかし、すぐに正社員になりたいわけではない。
 なぜなら、正社員になると束縛が多いからだ。
 だから、もし非正社員のまま待遇が改善されるのなら、非正社員のままでもいいと思っている。
 あるいは、正社員でも束縛の少ない働き方ができる会社があるなら、正社員になってみようかと思っている。

 第3章 上流なニート下流な正社員 より

 この指摘は、ユニクロが「同社で働く非正社員のうち優秀な社員を正社員にしようとすると、断られた」と具体的事例で更に裏づけされる。

 更に、この下流社会という本が重視する、本人が自分の階層意識をどのあたりと考えているかという調査の結果だが、
 

 つまり、正社員になれずに、下手に派遣やフリーターで働くくらいなら、働かないでニートになったほうが階層意識が高い、上流だよ、ということなのだ。
(中略)
 つまり、階層意識と同じで、正社員になれずに派遣やフリーターで働くくらいなら、ニートのほうが生活は楽しいということなのである。

 第3章 上流なニート下流な正社員 より

 何その働いたら負けかなって思う社会。

 結局、必ずしも高所得を志向せずに、正社員による束縛を嫌い、むしろ自分らしさや地元志向や自由な時間を謳歌するのが「下流社会」だということだろうか。
 日本はこんなんでいいのかとか思いつつ、思い出すのはこんな古い言葉。

 ともかく勝利をとげた資本主義は、機械の基盤の上に立って以来、この支柱をもう必要としない。禁欲をはからずも後継した啓蒙主義の薔薇色の雰囲気でさえ、今日では全く失せ果てたらしく、「天職義務」の思想はかつての宗教的信仰の亡霊として、われわれの生活の中を徘徊している。そして、「世俗的職業を天職として遂行する」という、そうした行為を直接最高の精神的文化価値に関連させることができないばあいにも――あるいは、逆の言い方をすれば、主観的にも単に経済的強制としてしか感じられないばあいにも――今日では誰もおおよその意味を詮索しないのが普通だ。営利のもっとも自由な地域であるアメリカ合衆国では、営利活動は宗教的・倫理的な意味を取り去られていて、今では純粋な競争の感情に結びつく傾向があり、その結果、スポーツの性格を帯びることさえ稀ではない。将来この鉄の檻の中に住むものは誰なのか、そして、この巨大な発展が終わるとき、全く新しい預言者たちが現れるのか、あるいはかつての思想や理想の力強い復活が起こるのか、それとも――そのどちらでもなくて――一種の異常な尊大さで粉飾された機械的化石と化することになるのか、まだ誰にも分からない。それはそうとして、こうした文化発展の最後に現れる「未人たち」にとっては、次の言葉が真理となるのではなかろうか。「精神のない専門人、心情のない享楽人。この無のものは、人間性のかつて達したことのない段階にまで既に登りつめた、と自惚れるだろう」と。

マックス・ヴェーバープロテスタンティズムの倫理と、資本主義の精神』第2章禁欲的プロテスタンティズムの天職倫理 より


 いやはや。私も、古い人間だなあ。