NPOが自立する日
- 作者: 田中弥生
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2006/10
- メディア: 単行本
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
この本を読んでみて、その違和感の正体が少しわかった気がした。
現在日本のNPOの多くが、行政機関の委託事業に依存した経営体質になっている。
この本では、そのことをNPOの下請け化と呼んでいる。
下請け化とは「行政の仕事が(仕様)がそのまま委託先に依頼されるが、権限は行政側に維持されていること。そして、受託側は委託条件に不都合を感じても、受託することを優先するために、断ることができないこと。」(第三章 錯綜する下請け化問題 より)と定義されている。
多くのNPOは、設立当初は委託事業のために活動しているわけではなかっただろうが、委託を受けるプロセスで変化が起こっているのではないか。
さらに、最近では行政からの委託だけを目的に、手続きが簡単だからとNPO法人を設立するケースも出現している。彼らにたずねると、寄付集めやボランティアは念頭にない。必然性がないからだという。
第二章 二極化するNPOと下請け化問題 より
そして、下請け化したNPOの特色として挙げられていることは
1 社会的使命よりも雇用の確保、組織の存続目的が上位に位置する。
2 自主事業よりも委託事業により多くの時間と人材を投入する。
3 委託事業以外に新規事業を開拓しなくなっていく。新たなニーズの発見が減る。
4 寄付を集めなくなる。
5 資金源を過度に委託事業に求める。
6 ボランティアが徐々に阻害されている。あるいは辞めている。
7 ガバナンスが弱い。規律要件が十分に整っておらず、実質的に組織の方向性を定める理事の役割について、あらかじめ組織内の正式合意事項として共有されていない。また、理事の時間の多くが行政との交渉に投じられるようになり、理事の役割である組織のチェック機能が行政からの委託条件やコンプライアンスを守るための機能になっている。
第二章 二極化するNPOと下請け化問題 より
この事例に登場するNPOの行き着く先はどうなるのか。活動と組織を維持するために委託事業を複数引き受け、委託のパッチワークで乗り切ることになるだろう。その間、自主事業は縮小され、会費、寄付、ボランティアなど当該NPOの社会的使命や活動趣旨に賛同していた人々から徐々に乖離していく。委託中心で、ボランティアも会費、寄付など市民からの支援もなく、自主事業が縮小され、職員は雇用された労働者という感覚をもちはじめる。多くの人は、「それって、NPO?」と言うだろう。私たちがイメージしたNPO像とは直感的に違うと思うからである。
第二章 二極化するNPOと下請け化問題 より
それが、おそらく違和感の正体だろう。
そういった傾向を受けて、この本では「原点へ返れ」と主張している。
一度自分たちの社会的使命に立ち返り、組織のガバナンスをきちんと構築し、経営の視点で事業評価を行い、市民に対してアカウンタビリティを果たして市民の支持を求める。
それしかないのだと。